Chateau Mouton-Rothschild
シャトー・ムートン・ロートシルト
唯一、公式格付け変更がおこなわれた第一級シャトー
アーティスト・ラベルも大人気
その歴史は1922年、バロン・フィリップ・ロートシルトがこのシャトーの魅力・美しさに生涯の全てを注ぐことを決意したことにより始まりました。1924年には、従来の慣習を改め、瓶詰めから貯蔵までの全ての工程を自らシャトーで行なうことで、ワインの質をシャトー所有者の彼自身が完全にコントロールすることを可能にしました。そしてシャトー・ムートン・ロートシルトは、1855年以来のメドック格付の歴史上で唯一、1973年に二級から一級に昇格しています。
ラベルアートの面では、1945年に、フランス開放の祝賀として勝利=Victoryの頭文字Vをムートンのラベルに付けることを考案。以来、ヴィンテージ毎にシャガール、ピカソ、バルチェスなどの著名な画家がムートンのボトルを飾っています。
現在、愛娘バロンヌ・フィリピーヌ・ロートシルトから彼女の3人の子供達がシャトーの経営を担っています。
ユダヤ系の大富豪ロスチャイルド家がこのシャトーを買収したのは、1853年のこと。ところが、その2年後のメドックの格付けで、必ず1級を取ると思われていたムートンは、2級に格付けされてしまいました。これに奮起したロスチャイルド家は、「1級にはなれないが2級には甘んじれぬ、ムートンはムートンなり」と言い放ち、畑、醸造技術、熟成方法などに改良を加え、1級になるために様々な働きかけを行ってきました。118年後の1973年、4世代にわたる努力の末、 シャトー・ムートンは悲願の昇格を果たします。その時、「われ1級になりぬ、かつて2級なりき、 されどムートンは昔も今も変わらず」という名句を残したという、有名な逸話が残されています。
シャトー・ムートン・ロスチャイルドは5大シャトーの中では、最も豪勢なワインと言われています。 カベルネ・ソーヴィニヨンの比率が高く、飲み頃になるまでに時間がかかる長期熟成型のワインです。エレガントなブーケと豊かなボディを持った比類ないワイン。シルクのようなきめ細かさ、アーモンドとすみれの香りを秘めたエレガントな芳香、そして酸味とコクの結びついたバランスの良さは、理想の赤ワインが備えている全ての条件をくまなく発揮しています。
ロバート・パーカーJr.ボルドー第4版より
ムートン=ロートシルトの地位もワインも、故フィリップ・ド・ロートシルト男爵が独力で築き上げたものだ。21歳になったばかりでシャトーを買い取った時にムートンに対する思い入れが強かったのは間違いないが、それにしても、豪勢なまでにリッチで、著しく深みのあるエキゾチックなスタイルのワインをつくりながら、彼は1855年のメドックのワインの格付けの変更を実現させた唯一の人物になったのだから恐れ入る。男爵は1988年1月に亡くなったが、今はその娘で、男爵同様にカリスマ性のあるフィリッピーヌがこの醸造帝国の精神的頂点にたっている。彼女もまた、パトリック・レオンとエルヴェ・ベルロー率いる有能なムートン・チームから並々ならぬ協力を受け続けている。
このシャトーが公式に「一級シャトー」に格付けされたのは1973年のことだが、その時、派手好きの男爵は挑戦的なラベルの言葉を、「一級にはなれないが、二級の名には甘んじられぬ、余はムートンなり」から、「余は一級であり、かつては二級であった、ムートンは不変なり」と変えている。
私がこれまでに飲んだ最も偉大なボルドーのいくつかがムートンだったことは間違いない。1996年、1995年、1986年、1982年、1959年、1955年、1953年、1947年、1945年、1929年はムートンが最高の状態の時の絶句するほどのすばらしい例である。だが、凡庸な、一級シャトーとしては恥じ入るしかない、買って飲む消費者としてもまったく腹立たしくなるヴィンテージもあまりに多かった。1990年、1980年、1979年、1978年、1977年、1976年、1974年、1973年、1967年、1964年は、一級シャトーの水準をはるかに下回ったし、1990年と1989年という2つの有名なヴィンテージでさえ、卓越したヴィンテージの一級シャトーに期待されるワインとしては、驚くほど生硬で、凝縮味を欠いていた。
このワインが商業的に成功した理由はいろいろある。まず、ムートンのラベルはコレクターズ・アイテムなのだ。1945年以降、フィリップ・ド・ロートシルト男爵は毎年1人の画家に1枚の絵の作成を依頼してはラベルの上部に載せてきたのだが、ラベル絵を描いてもらう大家にはこと欠かさなかった。ヨーロッパからはミロ、ピカソ、シャガール、コクトー、アメリカ人ではウォーホル、マザーウェル、1982年のジョン・ヒューストン。続いては、偉大なヴィンテージにおけるムートンの豪勢さが、ラフィット・ロートシルトの生硬な優雅さや、力強く、タニックで、濃厚で、男性的なラトゥールとはかなり異なるものであることがあげられる。3番目は、申し分なく維持されたシャトー自体が、その卓越したワイン博物館とともに、メドックの(そしてたぶんボルドー全域でも)最高の観光スポットとなっていること。最後は、男爵自身が、自らのワインのみならず、ボルドーのすべてのワインの宣伝に尽力したことである。娘のフィリップーヌも、父の遺産を十二分に存続させる力がありそうだ。
~一般的な評価~
かつては理解しづらいシャトーだった。卓越したワインをつくりだすと同時に、とりわけ一級シャトーとしてはがっかりさせられるほど凡庸なヴィンテージが多かったのである。ただし、1990年代半ば以降は一貫性が強まっており、1982年、1959年、1947年、1945年のような神秘的なムートンの特徴だった、豊かな、濃厚で豪勢なスタイルが表れるようになった。もっとも、品質と安定感が以前より良好になったと言っても、ポイヤックの2つの仲間と同列には扱えない。ラフィットほどは向上していないし、ラトゥールにもまだまだ追いつく必要がある。超一流のワインではあるが、ムートンのワインは豊富なタンニンのせいで、時おりだが、心持ちバランスに欠ける場合があるようだ。しかし、このシャトーの場合もやはり、ほかのボルドーの最上級のシャトーの同様、最近の価格は急騰している。また、セカンド・ワインのル・プティ・ムートンも、優良ではあるが、レ・フォール・ド・ラトゥールやカリュアード・ド・ラフィットほどの一貫性はない。
畑 面積:78ha、平均樹齢:45年、植樹密度:8.500本、平均収量:40~50hl/ha
育成:発酵とマセレーションは木製槽で15~25日間。熟成はオークの新樽で19~22ヶ月。清澄はするが、濾過はしない。
ブドウ品種:カベルネ・ソーヴィニョン77%、メルロ11%、カベルネ・フラン10%、プティ・ヴェルド2%
平均年間生産量:シャトー・ムートン・ロートシルト/30万本、ル・プティ・ムートン・ド・ムートン・ロートシルト/不定、エール・ダルジャン/1万8000~2万4000本
所有者:GFAバロンヌ・フィリッピーヌ・ロートシルト