Domaine de la Romanee-Conti

 

2016年ヴィンテージ

2016年10月21日の記述による

 
2016年:今年もまた、数々の極端な出来事に直面した年で、それらは今まで見たことがないようなものだったと言えるだろう。
 
剪定ばさみの音や人々の歌声など収穫の喧騒の後、コート ドールに再び静寂が訪れた。ヴィニュロンは今、ブドウがワインへと変化する醸造所にいる。ワインは最初はうなり、それから囁くように歌っている・・・。 醸造所はこの年の壮大なコンサート会場となっている。
 
外では、ブドウ畑がゆっくりと色を変えている。それはまるで毎晩、画家がここには赤、あちらには紫、黄金色、中でも多くの黄金色を放ったかのように・・・そして朝、我々は光り輝き変化する絵画を目にする。
 
それぞれのワインを樽へ移す作業が終わったばかりか、終わろうとしている。涼しいワイン庫で、ワインはゆっくりと樽の中で落ち着き、瓶詰めされるまでの極めて重要な18ヶ月の熟成期間をそこで過ごす。
 
春の時点では今年は完敗してしまうと予想していたが、それが近年の中で最も完璧なヴィンテージの1つに既に上げられるほど思いがけない成功に導かれたシナリオの各段階を理解するために、過去を振り返るときが来た。
 
ブルゴーニュのヴィニュロンが他のヴィニュロンに会った時、まず何が話題に上るか?「ああ、もし4月の霜が(そして一部の人々にとっては雹も)我々からこれほどの収量を奪わなければ、どれだけ素晴らしいヴィンテージとなったことだろうか!」
 
実際のところ、春には、ヴィニュロンはまるでオデュッセイアのユリシーズのようだった。怒れるポセイドンに嵐の中に投げ込まれ、あやうく沈ませられそうになりながらも、幸運にも他の神々が彼の味方となり、優しい女神によって救われた。
 
1年の幕開けは良くなかった。とても温暖な冬で、ブドウ畑に残った前年の有害物を排除してくれる氷点下にもならず、雪も降らなかった。
 
その結果、発芽は早く、春の間ずっと温暖で雨がどんどん降りつづき、それが7月半ばまで続いた。1月から5月の間にヴォーヌ・ロマネの村には516mmもの雨が降ったのだ!収穫のほとんど全てを雨によって失うことになったあの歴史に残る1910年以来、累積降水量の記録を超えた。我々は雨がずっと止まないのではと絶望的な思いだった。
 
雨が降らない日々が僅かな状況の中で、畑の耕作や病害虫の予防策を実施するのは難しかった。時折やってくる乾燥した天気を狙ってすぐに行動した。そのチャンスを逃してはいけない、さもないと草に覆われてしまう。ブドウ畑の最大の敵の1つ、ベト病の発生リスクがかつてないほど高まっていたので、とにかくブドウ畑を守らな
ければならなかった。
 
春には、通常であれば僅か数回、もしくは2015年のようにほとんど起こらないのに、ベト病の攻撃が35回もあったのだ。
 
一難去ってまた一難、自然が我々にさらなる困難をもたらし、4月の終わりには北風が雲を追いやり、我々が待ち望んでいた太陽を連れてきたが、実際は、3日間の強烈な朝霜をもたらし、極めて残念なことに4月27日の朝、我々のモンラッシェ、バタール・モンラッシェ、エシェゾー、グラン・エシェゾーの畑は霜によって壊滅的な被害を受けた。翌日には若い長梢は黒く変色し、乾燥して落ち始めた。不幸中の幸いで、ロマネ・コンティ、ラ ターシュ、リシュブール、ロマネ・サン・ヴィヴァンとコルトンはほんの僅か、もしくは全くこの霜の被害を受けなかった。
 
ベト病のリスクは衰えなかった。しばしば処置をする必要があり、7月半ばまでこの戦いは続いた。絶えず、献身的に、必要であれば土曜日も日曜日も、栽培責任者のニコラ ジャコブと彼のチームは、防御のために限られた量の銅と硫黄しか許されないビオディナミという我々の選択を守りながら戦い続けた。
 
農薬を使った時ほど収量の確保は完全には保障されないが、30年以上前に始めたビオディナミを忠実に守っていることで収量に損失はあるものの、ブドウの構成要素の凝縮による品質の向上はこの損失をはるかに上回る成果だ。
 
これらの気候条件は開花にとって、もちろん好ましくない。開花は6月9日に始まったが、近年ではどちらかといえば遅く、また特に開花が終わるのに6月25日までかかった。これではブドウの熟度の均一性に懸念がでてくる・・・しかしこの後やってくる暑さのおかげで最終的にはこの懸念は現実とはならなかった。
 
7月15日からは雨は止み、夏の気候がやってきて、この暑さは収穫とその後まで続いたのだ。
 
この暑く乾燥した気候はほぼ絶えずに吹いた北風によって維持された。ある日はとても暑く、酷暑に近く、最も陽にあたる面のいくつかの房の実は焼け始めるなど旱魃を恐れたが、8月15日あたりのちょっとした雷雨とその後ちょうど良いタイミングで降った2回の小さな雨(1回目は9月初め、2回目は収穫まであと数日であった9月16日から18日)で旱魃の脅威が避けられた。
 
これらの雨が乾燥によって成熟が止まりかけていたいくつかの畑を救い、ブドウの実を膨らませ、そして糖度と梗・皮・種のフェノール成熟の進行のバランスを取り戻した。
 
この理想的な条件が春の戦いの後、ブドウ樹の回復を助けた。特に霜にやられたブドウ樹は新しい長梢を伸ばしており、翌年2017年にブドウが十分に実ると見込むことができた。
 
4月末の霜の後のブドウ畑の状況を考えると、ヴィニュロンは奇跡を信じた。
 
ピノノワールにおいてもシャルドネにおいてもこれらの理想的な条件下でブドウはとても早く熟し、成長期の最後に暑い天候によってこの2つの品種が非常に早く、潜在的なアルコール度数が上がることが改めて証明された。同時にアントシアニンとタンニンは2015年よりも高くなってさえいた!
 
分析と試食で9月15日前後にブドウは既に熟していることがわかっていたが、素晴らしく健全だったので急がずに、9月22日まで待ち、結果的に最後の小さな雨の恩恵を受けることができた。いつも一番初めに熟す、コート ド ボーヌに位置するコルトンから収穫を開始した。
 
それから9月23日にヴォーヌ・ロマネに移り、毎日良い天候の下で9月30日まで完璧に健全な状態(2015年に次ぎ2年連続でボトリティスが一切付いていなかった)で黒く熟した、果汁と糖分たっぷりのブドウが収穫でき、お祭りのような雰囲気だった。恐怖は終わりだ!もう、太陽の下で歌う収穫人たちの歌声と、喜んで果実を授かってくれる大地の無音の呼吸の音しか聞こえてこない。
 
収穫の順番とおおよその収量は以下の通り:
 

   収穫日  おおよその収穫
 コルトン  9月22日  22hl/ha
 リシュブール  9月23、24日  24hl/ha
 ロマネ・コンティ  9月25日  24hl/ha
 ラ・ターシュ  9月24、25日  31hl/ha
 ロマネ・サン・ヴィヴァン  9月27、28日  27hl/ha
 グラン・エシェゾー  9月29日  7hl/ha
 エシェゾー  9月29日  6hl/ha

 
霜の被害を受けなかったロマネ・コンティ、ラ ターシュとコルトンにおいては収量はやや少なめ~例年通り。畑の北部が少し霜の被害を受けたロマネ・サン・ヴィヴァンとリシュブールはそれより少ない収量。グラン・エシェゾーとエシェゾーではわずか6~7hl/haしかないが、春時点で予想していた絶望的な状態からするとこの収量は良い意味での驚きであった。何より収穫できたブドウは美しかった。
 
ご覧の通り、ル モンラッシェはこのリストから除外されている。それは霜によって特に打ちのめされてしまったからである。春に我々はまったく収穫さえできないと予想していた。最終的にはわずかばかりのブドウを収穫できた。しかし極めて少量だったので、シャサーニュ側に位置するブドウ畑を所有するほかの6軒のドメーヌと連帯する作戦を取ることにした。(ピュリニーのモンラッシェは比較的被害が少なかった)。この7軒のドメーヌ(アミオ、コント ラフォン、フルーロ・ラローズ、ラミー・ピヨ、ルフレーヴ、プティジャンと我々)はそれぞれの畑から数キロほどのブドウを収穫でき、それをドメーヌ ルフレーヴに託し、ルフレーヴがそのブドウを圧搾し醸造した。最終的には2樽のワイン、つまり600本ほどのワインを造ることができそうだ。各ドメーヌが手にできる本数は、持ち寄ったブドウの重さの割合で決まる。共通のエチケットを設け、そしてある程度の本数を合意の取れたチャリティー活動用にオークションに出したい。
 
2016年はこうして全く異なる2つの顔を持った年となった:1つは春に見られた、自然がヴィニュロンを打ちのめそうとした顔のこと(もちろんヴィニュロンはそのままにはさせなかった)。もう1つは反対に、ヴィニュロンを助けて勝利へと導かせるかのように夏から収穫が終わるまで太陽の恩恵を与えた顔のこと。2016年には自然がブドウ畑を圧倒したが、実らせた果実に対し寛容で、最高の状態での成熟を許した。
 
ブルゴーニュの奇跡は存在し、ヴィニュロン達はこの2016年の記憶を長く留めるだろう・・・!
 
しかし、再び、発芽から収穫までの全体のサイクルを見直すべきだろう。我々は春には絶望し、全ての負の力を我々に向けて敵対してきた自然を恨んでいた。しかし、収穫が終わった今となっては、驚異的な乾燥の時期に被害を受けることなくブドウ樹が過ごせたのは、雨の多かった時期に土壌に蓄えられた水分のおかげであると考えなければならない。戦ったベト病に関しては、爪あととして10%ほど収量が減ったが、その関係で房の数が減り、残ったブドウの凝縮度が上がり、ブドウの高い品質に貢献した。
 
醸造所ではブドウ畑から運ばれたブドウは完璧に健全でほとんど選果の必要がなかった。僅かな除梗をした。数日間の発酵前マセレーションは自然に行われ、発酵は昼も夜も、注意深く献身的に醸造責任者のベルナール ノブレのチームが順調に進めた。果汁の色は初日から黒々と出てきて、アロマは発酵が進むにつれ次第に発展してきた。発酵の適切な温度によって、追求している抽出のバランスを実現させていく。醸造の平均期間は20日間。
 
この文章を書いた頃にはほとんどのワインが樽に移されている。それらは素晴らしく深い色合いをまとっている。アロマはまだ第一段階で、スパイスなどの奥には既に、類まれなヴィンテージのグランクリュの高貴な特徴を兼ね備え、口あたりは稀有なフィネスへと導くであろう果実、酸、タンニンのバランスを表現している。